土田浩翔「また観ようと思ってもらえるために」Mリーガー列伝番外編
誰もが笑顔で麻雀の時間を共有できるコミュニティを作るため、1986年にプロ入りする前から麻雀教室講師として麻雀の魅力を伝え続けて来た土田浩翔プロ(最高位戦日本プロ麻雀協会)は、Mリーグが創設された2018年から対局解説を務めている。
ユーモアを交えた品のある話し方で、リーチ後にツモる巡目を予測する等、様々な角度から視聴者を楽しませているレジェンドプロに、解説時に心がけていること、対局解説の歴史、そして「“もっと”この熱狂を外へ」伝えるために出来ることを聞いた。
対局解説で心がけている3つのポイント
対局解説では視聴者にわかりやすく伝えるため、土田プロは「短いセンテンスで伝える。専門用語を使わない。綺麗な日本語を使う」という3つのポイントを意識している。
「とくに専門用語はできるかぎり使わないようにしています。たとえばトイツという専門用語は七対子を知っている人が多いので使っていますが、シュンツやメンツといった専門用語は使わずに“組み合わせ”と呼んでいます。将棋番組を観ていてもそうですが、専門用語が入ってくると聞きづらいからです。マニアックな人や専門家には専門用語を使ったほうが早く伝わるのですが、すべての視聴者はそうではない。とくにMリーグはプロ向けに解説する番組ではないので、また観ようと思ってもらえることが大事」と考えている。
心がけている3つのポイントは、自身がライフワークとしている麻雀教室で培われたという。「若い頃は正しいことを基本から伝えようとしていました。でもそれでは、麻雀ってやっぱり難しいなと受け取られてしまいました。たとえ正確に伝わらなくても、脱線した話をしても、生徒さんには楽しかったらまた行こうという気持ちになってもらえるように伝えていかないと、麻雀って難しいなと受け取られてしまいます。だからご主人がMリーグを観ている横で、よくわからないけど付き合って観ている奥さんが面白そうねと思ってもらえるような対局解説をやるべきなんです」と視聴者に難しい印象を持たれてしまったら次は無いという緊張感を常に持っている。
さらに視聴者の視野が広がるように聴いていて違和感のない日本語を使うことも意識している。「なんでもかんでもすごい!と連発していたら、何がすごいのかがわからなくなります。すごいプレーというより、素晴らしいプレー。すごい手順ではなく、美しい手順と伝えた方が、聞いているほうも心地よく受けとめてくれるのではないでしょうか」
解説において何よりも大切なこと
土田プロと言えば、占い師も驚くような予測もひとつのウリだ。「何巡目に何をツモるという予測は直感でしゃべっています。もともと麻雀にかぎらず、物事を直感で処理していくタイプなので、その瞬間に感じるものが言葉として出ているだけなんです。当たれば八卦、当たらぬも八卦なので、また同じことをやってくれと言われても出来ません」と少年のように笑う。
卓越した読みの鋭さもレジェンドプロと呼ばれる所以だ。「局が長引く時は3巡目ぐらいまででわかります。この感覚は打ち手としてのキャリアで培われたものだと思います」と長引きそうな局だと感じたら、雑談を織り交ぜるようにしている。
そして解説において何よりも大切なことは、人好きであることだと語る。「打ち手の心技体。心と体の問題で技は崩れていくものなので、昨日の自分と今日の自分と明日の自分が違うのは、日常と一緒ですよということは伝えていきたいですね。そのためには選手への愛情、実況者への愛情、視聴者への愛情。すべては愛情があれば伝わるはずだと信じています」
対局解説の原点は小学生時代にあり
日本で初めて麻雀対局がテレビ放送されたのは、日本テレビ系列番組『WIDE SHOW 11PM』(1965年~1990年)だった。その番組には1968年以降、毎週金曜日夜11時過ぎから放送された「実戦麻雀教室」という人気コーナーがあり、司会は大橋巨泉さん(享年82)、聞き手役を女優の朝丘雪路さん(享年82)が務めていた。当時9歳だった土田プロは7歳の頃から家族麻雀をやっていたこともあり、実戦麻雀教室を毎週楽しみにしていた。
「巨泉さん自身も対局していて、対局相手は作家の阿佐田哲也さん(享年60)、麻雀プロの走りとなる麻雀新撰組の小島武夫先生(享年82)を筆頭に古川凱章先生(享年77)らが出ていました。この牌を切った理由は?とか、この局を境にして誰々さんに流れが行ったみたいな感じで、わかりやすく面白く打牌解説をしていました」とこの番組をきっかけに、対局解説に興味を持つようになった。
麻雀番組で磨き上げてきた「ツッコミとボケ」
プロ入り後、初めての対局解説に臨んだのは、1998年にMONDO TV(当時はMONDO21)で放映された対局番組『第2回 麻雀デラックス』(モンド麻雀プロリーグの前身)に選手として出場した時だった。
以降、解説者として磨きがかかったのは、MONDO TVで麻雀実況を担当している土屋和彦アナウンサーに出会ったことが大きいという。「土屋さんのおかげで麻雀の楽しさを、世間の麻雀ファンに伝える役割としての解説に目覚めた感じでした。土屋さんは、え~?そうなんですか?みたいな振りで、私の思っていることを引き出させて笑いに変えていく。またまた~!みたいな感じになって視聴者に笑いと楽しさを届ける。その合いの手の入れ方は一流でした」と自身の解説者としての方向性が見え始めた。
そして2007年頃からはフジテレビの人気対局番組『芸能界麻雀最強位決定戦THEわれめDEポン』でも解説を担当するようになった。「ガダルカナル・タカさんと野島卓アナウンサーには鍛えられました。おふたりに引き出してもらっている部分は多々あります。あんたの話はアテにならないんだよ!等と言ってくれるのでとても話しやすく、私のボケにふたりがツッコミを入れてくるスタイルが確立されました」
こうした経験からツッコミとボケを学び、解説者は実況者とのコンビネーションがすべてだと感じている。「実況者と打ち解け合うためには、相手の性格をよく知ることが大事です。もしも相手が生真面目な人だとしたら、どうやったらやわらかく受け止めてくれるのか。麻雀に限らずその人が一番好む話題を会話の中で探し始めます。そうやって呼吸や間合いを整えていく感じです」とMリーグでは声優の小林未沙さん、松嶋桃プロ(日本プロ麻雀協会)、日吉辰哉プロ(日本プロ麻雀連盟)の3人の実況者とコンビを組み、三者三様のリズムとテンポを生み出している。
「“もっと”この熱狂を外へ」展開するために
Mリーグ2020では「“もっと”この熱狂を外へ」をスローガンに掲げている。「麻雀という言葉に対する抵抗勢力、麻雀を誤解している人たちがあまりにも多いので、全国各地で地道な啓蒙活動を展開し続けないかぎりは、まだまだ理解してもらえないと感じています。とにかく裾野を広げていくことが大事なので、麻雀を知らない人に麻雀を知ってもらう機会をたくさん作っていくしかありません。そのためにはMリーガーが、もしくは麻雀プロ達が様々な場所へボランティアで行き、麻雀を教えるのではなく、麻雀の魅力を伝える語り部になってほしいなと思います。全国各地に支部を持っている麻雀プロ団体とMリーグが協力し、語り部を教育する場を作り、そこで学んだ語り部たちが全国各地で麻雀の魅力について語っていく。こういう時代ですから、YouTube等を使って麻雀を知らない人向けに楽しい話をするのもありですよね」と麻雀の魅力を地道に伝え続けていくことこそが、外へ広げていく活動だと考えている。
麻雀を知らない人に知ってもらうため、どんな人が対局解説にふさわしいのかも聞いてみた。「麻雀界内部にいない著名人がベストです。プロ野球の解説者としてタレントの中居正広さんや亀梨和也さんが出演しているように、麻雀をよく知っているアンジャッシュの児嶋一哉さんや麻雀能力の高い元中日ドラゴンズ監督の落合博満さんに対局を解説してもらうのも面白い。これでプロなの?なんて落合さんに辛辣に解説してもらえたら最高ですよね」
麻雀とは人の上にあるもの。そして自分を知るもの
土田プロにとって麻雀とは「人の上にあるもの。そして自分を知るもの」と捉えている。Mリーグにおいても、対局解説を通じて視聴者に、麻雀に秘められた無限の魅力に少しでも気づいてもらえるきっかけになれたらと願っている。そして麻雀に文化としての価値が認められ、明るい未来となることを心から期待している。
土田浩翔(つちだ・こうしょう)プロフィール
生年月日:1959年8月5日
出身地:大阪府大阪市
血液型:B型
キャッチフレーズ:トイツ王子
所属団体:最高位戦日本プロ麻雀協会
勝負めし:きつねうどん
著書:「土田システム 麻雀が強くなるトイツ理論」(毎日コミュニケーションズ)「最強麻雀 土田システム」(毎日コミュニケーションズ)「土田流 仕掛けを極める」(毎日コミュニケーションズ)「麻雀界の異端児 土田浩翔の流儀 運を育てる」(KADOKAWA)、「たまーじゃん夜桜たまがマンガで教える麻雀入門~監修 土田浩翔」(KADOKAWA)
主な獲得タイトル:第11、22期鳳凰位、第9期最強位、第26期王位、第22、23期十段位、第3、7、8回モンド21杯、第4回モンド21杯王座他
土田浩翔オフィシャルwebサイト:https://www.tsuchidakosho.com
土田浩翔Twitter:https://twitter.com/tsuchidakosho
年 | 歳 | 主な出来事 |
---|---|---|
1959 | 1歳 | 大阪府大阪市に生まれる |
1966 | 7歳 | 点数計算を覚え、家族麻雀を始める |
1968 | 9歳 | 『WIDE SHOW 11PM』の実戦麻雀教室で対局解説を知る |
1978 | 19歳 |
千葉県内の高校を卒業後、小樽商科大学へ入学 |
1980 | 21歳 | プロ入りを決意するきっかけとなる麻雀教室と出会う |
1981 | 22歳 |
第3期日刊スポーツアマ最高位戦優勝 |
1986 | 27歳 | 日本プロ麻雀連盟3期生としてプロ入り |
1992 | 33歳 | 第2回プログランプリ優勝 |
1994 | 35歳 | 第11期鳳凰位 |
1996 | 37歳 | 北海道札幌市に健康麻雀サロン「夢道場」をオープンする |
1997 | 38歳 | 第9期最強位 |
1998 | 39歳 | 『第2回 麻雀デラックス』に出場し対局解説を初めて行う |
2000 | 40歳 | 第26期王位 |
2002 | 42歳 | 第3回モンド21杯優勝 |
2005 | 45歳 | 第22期鳳凰位、第22期十段位 |
2006 | 46歳 | 第23期十段位、第7回モンド21杯優勝、第4回モンド21王座優勝。日本プロ麻雀連盟から独立後、日本麻雀機構を創設し理事長就任 |
2007 | 47歳 | 第8回モンド21杯優勝。RMU(Real Mahjong Unit)入会。『芸能界麻雀最強位決定戦THEわれめDEポン』で解説を始める |
2009 | 49歳 | 麻雀アカデミー開講(東京) |
2010 | 50歳 | 麻雀アカデミー開講(大阪)。RMU退会、日本麻雀機構一時休止を発表 |
2011 | 51歳 | 最高位戦日本プロ麻雀協会入会 |
2013 | 53歳 | ホテルニューオータニPremium健康麻雀教室開講(東京)、麻雀アカデミー開講(福岡) |
2014 | 54歳 | 麻雀アカデミー開講(札幌) |
2016 | 56歳 | 手牌を育て、心を育てるマージャンセラピー開講(東京) |
2017 | 57歳 | こころをそだてるプレミアム麻雀教室開講(大阪)、麻雀アカデミー開講(広島) |
2019 | 60歳 |
NHKカルチャーさいたまスーパーアリーナ教室開講(埼玉) |
◎写真&インタビュー構成:福山純生(雀聖アワー)